01.はじめに

霊園山(りょうおんざん)・聖林寺は、大和・桜井の街外れ、多武峯街道がようやく山ふところに入ろうとするとき右手に見える談山山系の前山・安部嶋山の中腹にあって、静かな落ち着いた、たたずまいを見せる山寺である。すなわち、この寺は大和盆地の外周の東南端に位置する。
 小高い所にあるだけに、門前から北を望む眺めは又格別である。美しい三輪山の山稜、それに箸墓など古代大和の古墳が散在する盆地の東半分が絵巻物のように展がる。ここからは奈良の都はさすがに遠いけれども若草山焼の時には赤い炎が北の空を明るく染めて燃え上がるのをはっきり認めることができる。

紫の三輪の山並み夕ざれて  身まま欲りして この丘に立つ

 古美術界の泰斗丸尾彰三郎先生が、この寺を訪れて拝み見たかったのは、もちろん国宝十一面観音さまの優美なお姿であったろうが、ここから望む三輪山と盆地の景観も又捨て難い。