04.十一面観音

十一面観音は、よく知られているように、かつては三輪山・大御輪寺の本尊であった。大御輪寺は奈良時代の中頃、大神々社の最も古い神宮寺として設けられ、十一面観音はその本尊として祀られてきた。
神仏分離令を受けて、慶応四年五月十六日に三輪の地を離れられる。当時の住職は高僧大心(聖林寺再興七世)であった。三輪流神道の正嫡であり、東大寺戒壇院の長老であった大心以外にこの仏像を正式に拝める僧はなかったのだろう。巷間伝えられる、廃仏棄釈で放追せられたというのは事実ではない。なお、大御輪寺縁起によると、観音は、かつて四天王に守られ前立観音があり、左右に多くの仏像が並び立ち(現法隆寺の地蔵菩薩=国宝は左脇侍)背面には薬師如来一万体が描かれた板絵がある荘厳の中に祀られてきたという。ご自身も化仏三体を失っておられるが、かつては、美しい 瓔珞で飾られ、きらびやかな天蓋の下におられた。現在、奈良国立博物館に寄託している光背は大破しているが宝相華文をちりばめた見事なものであろう。
長い年月を経て多くのものを失ったとはいえ、これだけ保存良く伝わったことはそれだけでも稀有なことである。

04.十一面観音