07.最後に

時代は流れて、戒律と祈祷の寺であった聖林寺にも拝観客が訪れるようになった。けれども、京都や奈良のように至便ではないことが幸いして、ここは観光客の喧騒には無縁である。緑なす木々に風わたる山の小寺は訪れる人に安らぎと思索の空間を保証している。境内の静寂を保つのも、あるいはこの寺の住持の務めの一つかもしれない。この寺を護るさだめを負い、経に言う「恒ニ作ス二衆生ノ利ヲ一」を契う筆者には郷土の哲学者・保田與重朗の次の歌ほど深く心に響くものはない。

けふもまた かくて昔となりならむ  わが山河よ しずみけるかも

聖林寺 第12世住職(元住職) 倉本 弘玄